クリティカルシンキングを日本語に直訳すれば、批判的思考法ということになるでしょう。批判というと否定的なイメージがありますが、正しい意味としては、ある事象について前提や思い込みを排除して判断することを言います。
以前のコラムでも簡単にクリティカルシンキングに触れましたが、心理的な側面から見てもやはりなかなか実践は難しいものですので、しばらく重要なポイントごとにクリティカルシンキングについて書いていこうと思います。
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思い込みのメリット
クリティカルシンキングは、前提や思い込みを排除し考えることで、新たな気づきや違う選択肢を導き出す思考法です。物事がうまくいかない時の原因究明や、これから新規に何かを始めようとする時には必須とも言えるものです。
しかし、思い込みにはメリットとデメリットがあり、クリティカルシンキングは必ずしも思い込みを軽視しているわけではありません。
実績のあるビジネスマンであれば、その思い込みは自身の経験から導き出されているものであり、多くの場合間違っていないように思います。間違っていないことに対してクリティカルシンキングを行なっても、結果は同じになりますから、このようなケースでは無意味、もしくは逆効果と感じるかもしれません。
また、ビジネスの「勘」のようなものは説明が難しく、論理的に説明ができないかもしれませんし、理屈を考えている時間が失敗の原因になることもありえます。
良く捉えれば、思い込みは思考のショートカットとして強い武器になり得ます。
思い込みのデメリット
思い込みのデメリットは、思い込みが=前提条件となり、思考の壁になってしまうことです
例えば、
「朝早く起きられない」
という問題に対して、
「やる気がないから」
という結論を出してしまうとします。
これは、「やる気」が原因=前提条件となっていることを意味していますが、果たして本当にそうでしょうか。
もしかしたら、いつも使っている目覚まし時計の音が小さい可能性もありますし、慢性的に寝不足かもしれません。
やる気がない、と結論づけてしまうことで、他の可能性を考えることができなくなってしまっているのです。
上記の例は非常にわかりやすいものですが、思い込みというものは本人の中では無意識的に理屈があるはずですので、それが思い込みということに気づきにくいところが本当に厄介なのです。
例えば新たにビジネスをしようと考えた際、下記のデータを検証しなければ始められないような場合、どのような判断をするでしょうか。
検証事項:下記のデータから、社会のテストにおける男女差はあるか
男子25名、女子25名が通う学校の社会のテストの結果についてのデータ
男子の平均点:72.5
女子の平均点:71.3
男子の標準偏差:1.2
女子の標準偏差:1.3
※標準偏差…データの散らばり具合を表す数値の一つ。この場合、全男子の点数は平均点72.5点より±1.2点の中に分布している状態
いかがでしょうか。平均点は1.2点しか差がありません…
このデータの検証結果は、「社会の成績には男女差がある」です。
統計学のt検定という、2つのグループの平均値が等しいかどうかを統計的に比較する検定方法を使用した結果、95%以上の確率で男女差があるということがわかります。
統計学の知識をお持ちの方には釈迦に説法になりますが、これは標準偏差=点数のバラツキがポイントになっています。
ちなみに、もしこの標準偏差が倍の値であれば、男女間に差はないということになります。
計算方法の説明は省きますが、ここで考えていただきたいことは、一見では判断できない可能性が高い事象があるということです。
もし標準偏差というデータがなかったら、パッと見た感じでは平均点が1.2点しかないわけですから、差はないと感じるのではないでしょうか。
逆に言えば、このような質問の場合、標準偏差がわからないとわからない、ということが本当の前提条件になるわけです。
このケースでは、パッと見て判断し、もし男女間に差がないという仮説を立てて何かしらの行動に移ったとしたら、おそらくどこかで失敗するでしょう。そして新しい手を打つために失敗の原因を確認しようとした時に、果たして標準偏差という原因に気づくことができるでしょうか。
このお話でお伝えしたいことは統計学の知識が重要ということではなく、前提条件の深堀が問題追及や新規に何かを行う際に重要ということです。
そしてその前提条件を深く考えるために必要な思考法がクリティカルシンキングなのです。
まとめ
クリティカルシンキングは、ロジカルシンキング(因果関係の分解)を一歩深めたものと捉えることもできます。
今回は「思い込み」に焦点を当てましたが、実際には行動を起こさなければわからないことも多く、行動とクリティカルシンキングを同時に行なっていくことが大事ではないかと思います。
もし何か問題を抱えているようでしたら、原因に「思い込み」がないか疑ってみるところから始めみてはいかがでしょうか。