日本の労働生産性は先進国の中で最低などというニュースは以前から言われており、その原因は長時間労働であることもよく指摘されています。
個人的には日本人の性格や文化から、もともと長時間労働になりやすいのではないか、という思いもありますが、ブラック企業やホワイト企業という言葉が取り沙汰される現在では、そうも言っていられない時代になってきています。
今回は、法的側面からみた長時間労働についてお話ししてみようと思います。
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長時間労働と睡眠時間
社長やマネジメント層からすれば、定時でさらっと帰る社員より、終業時刻を過ぎても黙々と仕事を続ける社員の方が評価したくなるのが人情でしょう(勿論「そんなことはない!」という声は大歓迎です)。
しかし、長時間労働と健康の相関性は年々明らかになってきており、ある研究では、1日の拘束が11時間以上では、1日拘束7~10時間を基準として、脳・心臓疾患のリスクが「有意」に高いという結果が出ています。
また、時間外労働と精神障害の関係についても、100時間以上の残業をしている労働者は、99時間以内の労働者に比較して、出来事から精神疾患発病までの期間が早く、発病から自殺に至るまでの期間も短いことが明らかにされている研究もあります。
特に、長時間労働は睡眠時間に大きな影響を与えるため、睡眠不足によって起こる病気(身体的・精神的ともに)は、すべて長時間労働に原因があるとしても過言ではないようです。
実感として分かるものも多いですが、睡眠不足は様々な能力を低下させ、リスクを高めます。
・判断力の低下
・記憶力の低下
・うつになりやすくなる
・高血圧・糖尿病のリスクが高まる
・脳・心疾患のリスクが高まる
などなど、単純に生産性が落ちるだけでなく、就業中の事故や病気につながるものが多く存在します。
つまり、長時間労働は、健康という面から見ると、生産性をダウンさせる要因が含まれているということになります。
そして、もし長時間労働による睡眠不足が原因で何らかの事故が起きてしまうことを想定すると、企業としても長時間労働は「リスク」と認識するのがやはり正しいのではないでしょうか。
精神障害が業務上疾病として取り扱われる基準と長時間労働の関係
2015年のデータでは、精神障害の訴訟件数や労災認定件数が2000年の10倍を超えています。それに連れて、企業のメンタルヘルスに対する関心も増加してきています。
現在、精神障害が業務上疾病として認定される基準が策定されており、それは以下のようになっています。
1.対象疾病(※)を発病していること
2.対象疾病の発病前おおむね6ヶ月間の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
3.業務以外の心理的負荷および個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと
※対象疾病とは、国際疾病分類(ICD)のF2~F4に分類される精神障害のこと
特に注意すべきは、2の「業務による強い心理的負荷」の部分です。
この心理的負荷は客観的に判断され、弱中強の区分をされます。
ここを「強」と判断された場合、非常に労災認定される可能性が高くなります。
そして、下記のような極度の長時間労働は、「強」と判断されます。
1.発病日から起算した直前の1ヶ月間におおむね160時間を超える時間外労働を行った場合
2.これに満たない期間にこれと同程度(例えば3週間におおむね120時間以上)の時間外労働を行なった場合
※休憩時間は少ないが手持ち時間が多い場合など、労働密度が特に低い場合を除く
さらに、上記に満たない場合も、下記のように恒常的に時間外労働(月100時間程度)が行われていた場合、強と認定されます。
1. 心理的負荷の強度が「中」程度と評価される出来事の後に恒常的な長時間労働が認められる場合
2. 心理的負荷の強度が「中」程度と出来事の前に恒常的な長時間労働が認められ、出来事後すぐに発病に至っている場合、または出来事後すぐでなくとも事後対応に多大な労力を費やしその後発病した場合
3. 心理的負荷が「弱」程度と評価される出来事の前後に恒常的な長時間労働が認められる場合
その他にも基準はありますが、兎も角現認定基準では多角的に判断されますので、企業目線で、たまたま今月は残業が多かった、とか、口頭で注意はしていた、などといったことはほぼ無意味です。ですので、会社としては長時間労働について常に注意を怠ってはいけないということになります。
まとめ
いまでも企業では様々な長時間労働の対策を行なっており、効果が出ている企業も少なくないとは思いますが、実際に従業員にお話を伺うと、「もっと顧客のために働きたい」「求められる成果は変わらないが時間だけ短縮された」という声も聞きます。
制度として長時間労働を禁止したとしても、もし、休日の労働など、業務量が多く会社的には働いていないと見なされる時間に働いていたとすれば、それはそれ危険です。
なぜならば、仮に従業員が精神疾患になり裁判となった場合、その原因となる事実を立証するのは原告、つまり従業員側になるからです。
制度をいくら整えたとしても、実態が伴っていないようでしたら、それは原告側に証明されてしまうでしょう。そうなると結果リスクは変わらないことになります。
具体的な長時間労働を防止する手法は様々あると思いますが、もっとも大事なことは、長時間労働は個人にとっても企業にとってもリスクであるという認識をトップダウンで浸透させることです。
・上司だけでなく、従業員全員が長時間労働はダメだと意識する
・健康管理は上司の仕事、と認識を変える
・長時間労働や自身の健康に関して従業員が申告しやすい環境を作る
・特に睡眠時間の確保を重要視する
リスクヘッジやブラック企業やホワイト企業という評判を気にするだけでなく、この人手不足の中、いまの人財に末長く活躍してもらうためにも、従業員の健康を意識することは非常に重要ではないでしょうか。