健康経営の始め方

従業員の健康を促進するための戦略。
そのためには何をすればいいでしょうか?

・ジムと法人契約をして福利厚生として従業員に伝える
・朝の朝礼で、健康の重要性を伝える
・ストレスチェックを行い、従業員のメンタル状態を確認する

もちろん、どれも正解です。ただし、その裏には「続かない」「組織に根付かない」という問題があることも確かです。今回のコラムでは、企業が取り組む健康戦略の始め方というテーマをお伝えさせていただきます。

まず最初に理解していただきたいことは、「健康戦略が求められる背景」です。

健康戦略は、2000年代終盤から大企業を中心に広がりました。その理由として、長引く不況による人材コスト削減の影響で、従業員の労働環境の劣化が問題視された事が挙げられます。

この頃、ブラック企業や長時間労働、過剰なサービス残業などが社会問題となり、劣悪な労働環境を原因とする従業員の自殺や過労死などの労働災害が相次ぎました。その為に従業員が安全かつ健康的に働ける環境を求める声が高まり、企業もその環境を整備する必要に迫られたのです。

このような背景に加え、医療費の増加により膨れ上がった全国の健康保険組合の莫大な赤字補てんによって嵩んでいる医療費を、企業が少しでも削減するという意味合いもあります。健康戦略によって従業員に安全で健康的な働く環境を提供することで、企業は従業員の医療費を中長期的には減らすことが可能になります。

マクロな世界での健康戦略に取り組むべき理由

①少子高齢化による人材不足
特に、少子高齢化で労働力人口が減少していく状況において、「人材不足=人が採れない」「平均年齢が高い」という悩みを抱える企業は多く、厚生労働省の「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」によると、2015年の有効求人倍率は1.20倍(全産業年平均)となり、今後ますます人材獲得競争が激しさを増すことになるでしょう。労働市場からの新規採用はもちろんのこと、従業員の健康管理に積極的な姿勢は在職者の離職防止にもつながります。社内で確かなキャリアを築いてきた人材を守っていくことで、競争に淘汰されず成長を続ける企業体質が期待出来ます。

従業員の高齢化

少子高齢社会においては、高齢者も活用していかなければならない状況であり、必然的に企業の平均年齢も上がっていきます。
これまでの企業による社員の健康管理は、就業に支障を出さない、突然死させないなどリスク管理に主眼が置かれていましたが、リスク管理という「守り」の取り組みだけでは、平均年齢上昇に伴う生産性低下には対応できません。そこで、「病気にならなければよい」だけではなく、生産性を落とさない「攻め」の取り組みである「健康戦略」が求められているのです。

2060年には生産年齢人口(15~64歳人口)の全人口に占める割合は約半数までに落ち込むと予測される中(国立社会保障・人口問題研究所の人口推計による ※平成24年1月時点における出生中位・死亡中位想定での10月1日現在人口推計)、この傾向に歯止めがかからない以上、労働者一人当たりの生産性を高め続けなければ、持続的な経済発展は望めません。

そうなると、従業員一人ひとりの働き方や働く環境を見直し、改善するという取り組みが全社的に必要になってくることは明らかです。

政策・法制度による要請

現政権の標榜する「働き方改革」の旗印のもと、このところ矢継ぎ早に労働関係法令の改正や各種ガイドラインの策定、助成金の新設・拡充が進んでいます。こういった外部環境の変化に伴う経営の合理化も必要となります。

生活習慣病の実態

心疾患や脳血管疾患など、生活習慣に起因する疾病は人口全体の約3割をも占め、おもに企業を支えている働き盛りの社員が発症しています。療養などによって人員が欠けると、企業は大きなダメージを負いますが、社員が倒れて初めて、それに気づかされることが多いものです。

また、重大疾病を発症した場合、入院や長期療養が必要になるため、本人はもちろんのこと、企業にも大きな負担がかかります。

医療技術が進歩した今なお、傷病等により医療機関にかかっている者の割合(通院率)は、40代で27.3%、50代で41.9%、60代で57.7%といいます(厚生労働省「平成25年国民生活基礎調査の概況」)。
 つまり、それだけのリスク(病欠・介護・長期休職・パフォーマンスの低下など)を抱えた従業員の健康をいかにしてマネジメントし、どれだけ健康寿命の延伸に貢献できるかが企業に問われているのです。

中小企業白書などからも、最近の学生たちは、賃金や知名度よりも、労働時間や職場環境を重視して、就職先を選ぶ傾向がうかがえます。就職活動は売り手市場で、労働・職場環境が良くなければ、人材は集まりません。
学生たちにとって「健康戦略にきちんと取り組んでいる企業」は、俗にいう「ブラックでない企業」と等しい価値としてとらえられています。就職活動において、健康戦略に取り組んでいる企業は、「ホワイト企業」に見えるのです。
つまり、求職者から「健康戦略」が求められている時代なのです。

なぜ、社員の健康づくりが重要なのか

健康を保持または増進する為には、自分自身が 規則正しい生活や食生活に気を配ったり、定期的に運動したり、時にはリフレッシュし心や身体を休めることが必要です。働く人 にとって、労働時間=職場で過ごす時間は一日の中で大きなウエイトを占めており、まさに職場は健康づくりに取り組む為のフィールドと言えます。そのため、企業が 社員の健康づくりを積極的にサポートすることで、 健康増進に関する効果がより期待できるようになります。その為には、社員の健康を重要な経営資源と捉え、企業が健康増進に積極的に「健康戦略」に取り組む必要性があるのです。経営側が、一日も早く社員の健康づくりの重要性を改めて認識し、そして新たな一歩を踏み出す時と言えるでしょう。

健康戦略が企業にとって必要な事は理解して頂けたでしょうか。
では、本題に入っていきます。
いったいどのようにして健康戦略を始めたらよいのでしょうか?

まず、「健康戦略」の考え方を、以下のように捉える事が大切です。

◆「健康」は、「身体の健康」だけではなく、「身体と精神の健康」である
◆従業員の健康管理を、「コスト」ではなく「投資」として捉える
◆従業員の健康管理に対して、「個人任せ」ではなく「企業として」取り組む
◆従業員の健康増進を、企業の「経営課題」として捉え、戦略的かつ積極的に推進する
◆従業員の健康増進によって、「生産性の向上」等を目指し、「企業の成長」を追求する
◆個々の企業の状況に応じた「プラスアルファの取り組み」を実施する

STEP.1・・・健康宣言
・自社の現状を確認する
・社内に健康戦略を行うことを宣言する
⇒加入している健康保険組合・全国健康保険協会などが健康宣言事業を実施しているか(企業の健康戦略を支援しているか)を確認

STEP.2・・・組織体制
・社内で健康づくりの担当者を決める
・健康づくりに関する外部人材の活用も検討する

STEP.3・・・健康課題の把握
・健康保険組合・全国保険協会などとの連携
・定期健康診断の受診率を把握する
・可能であれば、健診結果などにより、自社の「健康度の見える化」を図る
・従業員の心の健康状態を把握する(ストレスチェック)
・残業時間、有休の取得状況、食事の時間帯など職場環境を確認する

STEP.4・・・計画策定・健康づくりの推進
・STEP.3で自社の健康課題を把握し、社内で優先的に取り組む課題を決める
・優先順位に従って課題解決の方法を検討し、計画を立案する
・健診受診率100%、喫煙率、有休取得率、朝食欠食ゼロなど数値目標を検討してみる

STEP.5・・・取り組みの評価・見直し
・従業員の健康づくりへの参加・実施状況を把握する
・生活習慣・健康状況の改善、参会者の満足度、仕事のモチベーションアップなど、健康づくりによる反応・効果を確認し、次の一手(改善策)を検討する
実際に企業がどのように取り組んでいるのか、事例をご紹介します。

従業員向け

【体力増進】
・運動会、ウォーキング大会などスポーツイベントの開催
・ウォーキング促進活動(歩数計の拝具、表彰等)の実施
・車内に独自のスポーツ施設完備、スポーツクラブ補助
・階段使用の推奨
・身体活動を計測するウエアラブル端末の活用
・健康プログラム(ヨガ・ストレッチ)の提供

【ワーク・ライフ・バランス推進】
・残業の事前申請ルール化
・ノー残業デー、年休取得促進日等の設定
・長時間労働者の上司指導
・全社の残業や休暇取得状況を役員会で報告

【食事・生活習慣改善】
・月1回の野菜現物支給
・社員食堂における健康メニュー(低カロリー・減塩等)提供
・食事メニューのカロリー表示
・自動販売機にトクホの飲料導入(会社負担で価格設定)
・朝型勤務の実施(無料朝食、社内飲み会は1次会まで)

【禁煙推進】
・禁煙外来の資金援助
・全社禁煙デーの実施
・禁煙成功者への禁煙手当支給

【疾病予防・早期発見】
・健康診断受診率100%
・二次検診受診推奨
・定期健診に加え、年に1回の人間ドック受診を義務付け
・がん検診受診の啓発活動
・乳がん検診受診キャンペーン
・有所見者の診察を義務付け
・インフルエンザ予防接種補助
・特定保健指導対象年齢を引き下げ

【メンタルヘルス】
・セルフケア、ラインケアに関する情報提供
・相談窓口(専任スタッフ)常設
・復職支援体制の構築
・海外赴任者の支援
・産業医、メンタルスタッフとの定期面談
・被扶養者の健康診断受診促進

●顧客・社会への貢献

【情報提供】
・情報誌での健康情報提供
・健康セミナーの開催

【啓発活動】
・禁煙、がん検診受診の推奨

【スポーツ振興への取り組み】
・市民マラソン大会等、スポーツ大会への協賛

【付帯サービス】
・電話やインターネットを通じて健康・医療・育児・介護等に関する相談の受付

●データ分析・活用

【検診・レセプトデータの活用】
・生活習慣病罹患者等への受診推奨
・罹患予備軍への健康指導
・健康項目の見直し
・数値目標の設定
・健康診断が時系列で閲覧できるWEBサイトの導入

【その他】
・企業内の事業所別等に運動習慣・災害件数等を分析し、健康増進の施策やインセンティブを設定

※「健康戦略」への取り組み状況(一般社団法人 日本経済団体連合会)参考

以上、いかがでしたでしょうか。健康戦略に唯一の正解というものはありません。企業が従業員の健康を意識し、従業員と一緒に試行錯誤を繰り返すこと自体に健康経営の価値があります。この機会に、経営戦略としての健康経営を始めてみてはいかがでしょうか。


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