法的観点から見た従業員の健康

近年、従業員が心身ともに健康に働くことは非常に重要視されています。

それは世間的な流れや求職者が感情的に求めているだけではなく、安定した企業の運営のために法的観点からも必要なことです。
しかしながら、そもそも労働基準法は、ブルーカラーを念頭に置いて設立された工場法が元となっており、ホワイトカラーが多い企業にそのまま当てはめることは難しいものです。
その上で多くの企業は賃金システムなど総額人件費でバランスをとってきましたが、ここ数年では若年労働者の過労自殺が問題となり、それを受けて労働者の健康問題として労働基準法を守るような指導が行政より強くなってきています。
企業側も過敏になっている中、よくある疑問をQ&A形式でまとめてみました。

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従業員の健康に関するQ&A

Q.労働時間の短縮など、労働契約の変更を労働者から求められた場合、受け入れなければならないか

A.私傷病によって「1日5時間の勤務にしてほしい」などは労働契約の債務不履行にあたり、不完全な労働提供を受け取る義務は使用者にはありません。
ただし、あくまで「私傷病」の場合になります。業務災害の場合は異なります。
また、従業員との関係や業務能力を考慮し、そのような変更を受け入れた際、もしくはその労働提供を受けた場合は、安全配慮義務が使用者に発生します。必ず労働時間の短縮や軽作業への配置転換などを行なってください。

 

Q.採用時にどこまで健康状態を調査することができるか

A.使用者の調査の自由は最高裁で肯定されています(法律に別段の定めがない限り、高校の新卒一括採用者を除く)。身元調査、健康診断、病歴の申告などの調査は行なっても構いません。
しかし、現在は身元調査を含めた事前調査は差別につながる可能性が高いという批判が多く、自治体で自主規制を求めている地域もあるためお勧めはしません。
健康診断は、厚生労働省は入社後に実施するよう指導していますが、特に脳血管疾患などを発症しやすい高年齢者に関しては、入社前に実施することをお勧めします。
病歴の申告につきましては、実施することをおすすめします。社会的差別につながるおそれがあるようなHIV感染症やB型肝炎、色覚異常など以外は申告をさせる方が労働者・使用者共にリスクの軽減になります。

 

Q.試用期間中の従業員の本採用を、病気を理由に取り消せるか

A.試用期間中は解約権留保付労働契約が成立するとみなされ、正社員の場合よりも使用者の契約解消の裁量範囲が広いと捉えることができます。
私傷病により就業の目処が立たない、もしくは病状は安定していても労働契約で約束した正社員としての労務提供が継続してできないと確定すれば、本採用を拒否することができます。
ただし、試用期間中であるということはすでに勤務している訳であり、採用内定者の内定取り消しに比べ訴訟リスクは高いと言えるでしょう。
また、私傷病によって労務提供できなくなった場合、試用期間中に休職規定が適用されないようにするため、就業規則に「試用期間中は休職規定の適用を認めない」旨の規定を定めておく必要があります。

 

Q.従業員の通院歴を健康保険組合に問い合わせても大丈夫か

A.労働者自身が知らないところで、労働者の健康に関わる情報のやり取りされることがあってはなりません。
健康保険組合には守秘義務があり、病院への受診情報が会社に流れることは許されません。必ず労働者自身の同意を得てからにしてください。

 

Q.病気の従業員に対する降格は認められるか

A.昇格や降格は使用者の持つ基本的な人事権ですので、病気を理由に業務を十分遂行できなくなったとしての降格は問題ありません。
しかし、人事権を濫用することは許されませんので、就業規則に規定を定めておくことが必要です。
実務においては、一時的に病気のために能力や成績が落ちた場合、降格処分が適当かというと難しいところです。このような場合は、休職により病気を治してもらい、以前と同じ役職や等級に復帰させることが望ましいと考えます。

 

Q.長時間労働をしないように口頭で注意をしているが改善しない。どうするべきか。

A.使用者は常日頃から労働者が長時間労働にならないよう注意し、長時間労働に陥っている労働者には通常の健康状態で働ける業務量に調整しなければなりません。したがって、口頭での注意は意味がありません。必ず具体的な措置を用意してください。

まとめ

心身ともに健康で働いて欲しい、という企業がほとんどだと思いますが、その心身の健康を損なわせるのが企業側であってはなりません。病気の対処、予防、健康促進は三位一体と認識し、従業員が健康で働き続けられる会社になることを目指して頂ければ幸いです。

 


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