「営業」や「プレゼン」という言葉はよく聞きますが、「交渉」という言葉は意外なほど聞く機会がないのではないでしょうか。
実際に営業活動を行なっていれば、必ずと言って良いほど交渉の機会があります。しかし、このような一般的に想像する「交渉」という言葉は、できればしたくないというような、あまり印象が良いものではないように思います。
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交渉に関する誤解
日本人は「和を以て貴しと為す」民族なので交渉事が苦手という話はよく聞きます。また、我慢や忍耐は、日本では美徳とされているのも原因にあると思います。
さらに、子供の頃から交渉や議論に慣れていないため、案件に対する批判や意見が人格にまで及んでしまいやすいということもあるでしょう。
これは、交渉に対するイメージの誤解に起因している問題であり、捉え方を変えることで解決できるものです。
交渉とは
近年、交渉に対する研究は国内外で盛んに行われており、様々な議論や流派のようなものがあります。しかし、どの研究でも言われていることは
Win – Win
となる合意を目指す、ことが交渉の基本ということです。
簡単に言えば、交渉は双方の利益の最大化を目的に行うべき、ということですね。
交渉に慣れた方や外国人は、最初から強い要求や条件、態度や言葉を発してくることがあります。例えば一方的に多くの値引きを要求されたり、かなり厳しい納期を指定されることがあると思いますが、そのような場合はどう対応すればよいのでしょうか。
たいていの場合、これは自分が有利になるために行うパフォーマンスと認識しましょう。ここで相手の言葉を正面から受け取ってしまってはいけません。むしろ交渉スタートの挨拶だと思いましょう。
交渉のポイント
多くの交渉学で重要なポイントとされていることは、
・事前準備
・論理的思考
・創造的選択肢
この3項目です。
事前準備はあらゆる物事で非常に重要ではありますが、それは交渉でも変わりません。
交渉における事前準備で最も大事なことは、合意のゴールを複数設定しておくことです。
交渉の場面において、
「けっこう無茶苦茶な金額を言われたけど、とりあえず受注できそうだから合意しておくか。今後の付き合いもあるし…」
ということはあるのではないでしょうか。これは相手が交渉上手の場合にも起こり得るケースです。
このような場合では、事前に
・最低受注金額
・最高受注金額
を自分の中で設定しておく必要があったのです。
人間は誰しも長時間の交渉を行えば、疲れてしまったり、使った時間を無駄にしたくないという心理が出てきます。そうなると、多少厳しい条件を言われても、油断しているとついつい飲んでしまうこともあるでしょう。
そのようなことにならないよう、事前に合意のゴールは自分の中で決定しておく必要があります。
また、事前準備の中では優先順位付けも行なっておくと交渉が非常に楽になります。金額を優先するべきか、納期を優先するべきか、量を優先するべきか、質を優先するべきか等、交渉で相手に削られても良いものと悪いものの優先順位をつけることで判断が容易になります。
論理的思考(クリティカルシンキング)
これも交渉においてのみ必要ということではありませんが、論理的思考は重要な要素です。先ほどのケースで言えば、
「今後の付き合いもあるし…」
という予測は、実はまったく論理的ではないですね。もちろん、どのような条件であれ受注があれば継続した取引の可能性は強まりますが、そもそもその保証もなければ、先方の無茶な条件を飲まなければ今後付き合えないというルール自体おかしいのです。
そして、一方的な要求を飲んでから始まったビジネスがどのように帰結するのか、考えなければなりません。必ずしも悪い結果になるわけではないと思いますが、目先の合意に囚われてはなりません。時には合意しないという選択肢も良い決断になることも忘れないようにしましょう。
さらに交渉において、「2分法の罠」という心理的に気を付けなければならないものがあります。
例えば、
「もう10%ディスカウントがあれば決められるんですが…」
という条件を交渉された際、これを受ける=Yes、断る=Noの2択で考えないようにするということです。これは、以前のコラムでご紹介したバイアスに非常に似ています。
このような場合、あえて10%高い条件提示をしているのでもない限り、基本的に値引きはしたくありません。
ここでまず考えるべきことは、
1.相手は何故ディスカウントを要求するのか
2.ディスカウント以外でどのような条件なら合意に至るのか
の2点です。
ディスカウントを要求する理由は、競合他社の製品と比べられて高いのか、担当者の予算枠を超えているのか、上司への手土産が欲しいなど、様々な理由があるでしょう。もしくは特に理由なく言ってみただけ、なんてことも考えられます。
言葉や手段を選ぶ必要はありますが、ここでは何故そのような要求が出るのか、相手の真のニーズは何なのか確認することがベストです。
そして2つ目の
「ディスカウント以外でどのような条件なら合意に至るのか」
という考えは交渉の根幹とも言える創造的選択肢につながります。
創造的選択肢(クリエイティブオプション)
ビジネスとは、潜在・顕在を問わずニーズに対して適したものを提案するわけですので、お互いに向いている方向は同じはずです。
・売上を上げたいというショップに対して売れる商品を提案する
・何かをしたいという企業に対して実現の支援を行う
・企業が負担に感じているコストをカットする
などのことができるからビジネスとして成り立ちます。そしてどちらも自社の利益の最大化を考えているはずです。
商談ともなれば、このような状態で交渉のテーブルに着いているはずですから、要はニーズと許容範囲の利益という2つの要件を満たすことが交渉の目的であり、Win – Winになるために必要なことです。
ここで重要な考え方が、「創造的選択肢」です。
創造的選択肢とは、相手の要求、またはこちらの要求通りにいかない場合に、可能な限り柔軟な発想を持って、互いの課題の解決、互いの利益の最大化ができる選択を探すという行為です。
この考え方は、先ほどの「2分法の罠」に嵌らないためだけに必要なわけではありません。ビジネスとして、相手と同じ方向を向いて考えるという姿勢や発想は非常に重要だからです。
交渉というと何だか相手が敵のような印象がありますが、決してそうではありません。信頼関係を築き、より良い合意を目指すために交渉は必要なのです。
まとめ
今回はどちらかと言えば交渉される側についてのお話でしたが、交渉する側においても逆に考えることで応用ができると思います。
・交渉は Win – Winを目指す
・事前準備/論理的思考/創造的選択肢がポイント
・信頼関係があってこそ交渉は成立する
交渉には様々な心理的テクニックが存在します。しかし、最も大事なことは相手との信頼関係を作ることです。所属会社が違うとはいえ、信頼のおける人とビジネスがしたいというのは誰しも同じはずです。社内の上司、同僚、部下に対しても同じですね。信頼関係ができないままテクニックに走ることは、危急存亡の秋でもない限りやってはいけないと心得るべきです。
ぜひ一度、「交渉」を念頭において社内外で話してみてはいかがでしょうか。